「観光・リハ連携人材」という発想は、ケアが重要な日本の産業分野として成熟しつつある中で、地域の観光産業とリハビリテーション分野(医療・福祉)を結びつけるものとして注目されています。
1. 観光・リハ連携人材の定義
観光・リハ(ビリテーション)連携人材とは、観光の視点とリハビリテーション(医療・介護・福祉)の視点を兼ね備え、観光活動を通じて高齢者や障害者の生活機能回復やQOL(生活の質)の向上を支援する専門的な人材を指します。観光とリハビリテーションという、両者を架橋することで、高齢社会における「健康寿命延伸型観光」や「福祉型観光」を推進できる人材モデルです。
- 観光側の知識:旅行企画、ツーリズム、ホスピタリティ、地域資源活用するなど
- リハ側の知識:理学療法、作業療法、言語療法、介護支援、福祉機器の利用など
2. 実例
いくつか国内外で進みつつある具体例を示します。
(1) 日本国内
- ユニバーサルツーリズム事業
JTBや地方自治体が中心となり、車いすユーザーや高齢者も楽しめる旅行商品を企画。理学療法士・看護師・介護福祉士が同行するケースもある。 - リハビリ旅行(リハツーリズム)
介護施設や病院が、退院直後の高齢者に対して短期旅行を組み込み、歩行訓練や社会参加を目的にした外出リハビリを行う。 - 温泉療法 × リハビリ
草津温泉や別府温泉では、温泉地観光とリハビリ治療を組み合わせたプログラムを提供している。
(2) 海外
- メディカルツーリズム(医療観光)
シンガポールやタイでは、観光と医療(手術やリハビリ、長期療養)を組み合わせたサービスが普及している。韓国では美容整形を中心にした観光がサービスが出現している。 - ヘルスツーリズム(欧州)
ドイツやハンガリーでは、温泉地や自然療養地での滞在型リハビリが保険制度に組み込まれている。
3. 観光・リハ連携人材の役割
- 高齢者や障害者の旅行・外出支援の専門知識を提供する。
- 地域観光資源を「リハビリ・健康維持」の観点で再編集する。
- 観光事業者と医療福祉事業者の間をコーディネートする。
- ユニバーサルデザイン、バリアフリー施策の現場実装を支援する。
4. 学問的に理解・考察するための知見
観光・リハビリテーション連携人材を考察する際には、以下のような複数の学問分野の知見が役立ちます。
1. 観光学
- ユニバーサルツーリズム:高齢者や障害者でも楽しめる観光サービスを研究する分野。観光・リハ連携人材は、バリアフリーな宿泊施設や観光ルートを企画・実践する際に役立つ。
- 観光産業政策:地域観光をどう育成・発展させるか。リハビリ専門性と掛け合わせることで「健康観光」や「介護予防型旅行」の政策提言が可能である。
2. リハビリテーション学
- 理学療法・作業療法・言語療法:旅行中の身体活動や余暇活動に安全に参加できる方法を設計できる。
- ADL(日常生活動作)評価:旅行先での移動や活動参加に必要な支援レベルを評価するための知的基盤である。
3. 福祉学・介護学
- 高齢者福祉・障害者福祉:観光の場面でも、利用者の尊厳を守りながら安心して活動できる支援をどう提供するかの基本原理を提供してくれる。
- ケアマネジメント:旅行や観光体験を「生活支援計画」の一環に組み込むことが可能になる。
4. 医学・健康科学
- 予防医学・運動療法:観光とリハビリを組み合わせることで、疾病予防や健康増進を図る「ヘルスツーリズム」につながる。
- 温泉療法:日本各地の温泉地とリハビリを結びつけるモデル(例:温泉+運動リハ)を考える上で重要。
5. 社会学
- 高齢化社会研究:旅行参加が高齢者の社会参加や孤立防止にどう貢献するかを検討できる。
- ライフスタイル研究:リタイア後の「生きがい消費」としての観光活動の価値を読み解ける。
6. 文化人類学
- 地域資源と文化的背景:観光資源を「健康・福祉」とどう組み合わせるかを、地域文化や伝統の理解をもとに設計できる。
- 観光と地域社会の関係性:観光客だけでなく、地域住民のQOL向上や交流促進も重視できる。
7. 経営学
- ヘルスツーリズム・メディカルツーリズム市場:観光×医療・福祉を新産業として発展させるためのビジネスモデル構築の視点を提供する。
- サービスイノベーション:(Service Innovation)旅行業と医療・福祉の協働による新しい顧客体験の創出を目指すイノベーション論で、分野横断的な総合的視野を提供できる。
8. 公共政策学
- バリアフリー政策:観光施設や交通インフラ整備と、リハビリ・介護支援をリンクさせる政策的視点を提供する。
- 地域包括ケア政策:観光資源を「住民の健康づくり」に活かす新しい公共施策への応用できる。
観光・リハ連携人材は「観光学+リハ学+福祉学」をコアに、医学・社会学・文化人類学・経営学・公共政策学といった周辺領域の知を掛け合わせることで、初めてその価値が十分に発揮されるモデルです。学際的な背景を持つことで、単なる「旅行支援者」ではなく、地域活性化・健康寿命延伸・新産業創出の担い手になり得ると思われます。
5. まとめ
「観光・リハ連携人材」とは、観光の楽しさとリハビリの機能回復を統合する新しい専門職であり、今後の高齢社会・インクルーシブ(包摂)社会において大きな意義を持つキー人材の一つとして有望です。既存の「観光学」や「リハビリ学」だけではなく、社会学や経営学などの知見を交差させることで、より体系的な人材育成や研究が可能になるでしょう。
